<コンテンツ>
平松礼二のジャポニズム
1. モネの庭を日本画に写す
2. 画文集①
3. 画文集②
4. 参考図書
石踊達哉の雅
1. 雅の世界
NHK日曜美術館は私の好きなテレビ番組の一つです。ここで取り上げられた作家の展覧会へ出掛けることも度々あります。美術愛好家には人気がありますから、影響力は大きいのでしょうね。平松礼二画伯も2013年9月15日に登場しましたので、ご存知の方も多いと思います。
平松画伯は2013年フランス・ジヴェルニー印象派美術館、2014年ベルリン国立アジア美術館で個展を開かれました。現存の日本人画家としては極めてまれなことのようです。平松芸術は勿論ですが、日本画のグローバル化への推進力にもなるものと大いに期待されていますね。
モネは日本人にも人気の高い画家で、その作風の確立には浮世絵を中心とする日本美術の影響を受けたことはよく知られています。いわゆるジャポニズムですね。平松画伯はそのモネの大壁画を50歳のときにパリのオランジュリー美術館で見て、広重・北斎を連想し、日本そのものであると感じ、「モネの世界を日本画の画材で描く」というテーマに取り組んだ、と述べておられます。
画家があるテーマを決め、それを斬新に描き、世の中に「独自の世界を開拓した」と認められるというのはとても難しいことなのでしょうね。精力的に作品を発表している最中に、その作品が西欧で高く評価されたのですから、画伯の卓越したセンス・思考・技術と並々ならぬ努力の賜物であり、幸運であったと思われます。
平松画伯の“「文藝春秋」表紙画集”を休日にユックリ目を通しました。初めは絵を見るのが目的で購入したのですが、眺めているうちに文章の面白さに気付きました。そして“画文集”というジャンルがあることを初めて知り、俄然興味が湧いてきました。
画家は絵を描くときに、何らかの思いを胸に描いているものでしょうね。この本は美しい絵と描いた時の画家の思いとが1:1で並べてあり、その時々の画伯の思考過程の一部が垣間見れるので大変面白いのです。絵が主体(オールカラーで小さすぎない)、文章は短め、という私の好みにもピッタリです。
“画文集”には絵の美しさ、楽しさ、魅力とともに、文章の美しさ、楽しさ、含蓄も重要な要素となるでしょう。知識も経験も豊富な大人向けとなれば、そのハードルは低くないように思われます。この本はその両方を備えており、私にはまたとない本となりました。
画文集というジャンルに興味が湧きましたので、早速平松画伯の画文集をネットで検索して取り寄せました。便利な世の中になったものですね...自宅でPCのキーをたたくだけで瞬く間に知りたい情報が得られ、欲しい本もオーダーすると数日で手元に届きます。
一冊目は2006年発行の「美しの國を往く ジャポニズムIV」です。シリーズ物でII、IIIもあります。画伯が心血を注いでおられる睡蓮、富士を中心に、紅白梅、路などの絵がオールカラーでふんだんに掲載されており、その合間に8篇の短文が配置されています。画伯が辿ってきた旅、その地誌的な記述もありますが、その時々の心理的葛藤の吐露もみられ、興味深く拝読いたしました。上昇気流に乗った時期の出版と思われますので、絵にはエネルギーが満ち満ちており、画伯の充実した創作状況がうかがえます。
二冊目は1997年発行の「平松礼二画文集 世界旅の画帖」です。この画文集は画伯がスケッチするために訪れた韓国、中国、ベトナム、インド、アメリカ、フランス、台湾各国のお話と素描、スケッチを掲載したものです(画集といっても良いくらいの構成です)。画業とは修行なのですね...再認識させられました。素描は本画とは違った面白さがあります。画家の特性の一側面を本画よりもよく表していると私は常々思っていました。この本は平松画伯の約20年にわたるスケッチの変遷が概観でき、大変面白く見て読むことができました。
平松礼二著 平松礼二画文集 世界旅の画帖 日本経済新聞社 1997年11月21日
平松礼二著 平松礼二画文集 美しの國を往くージャポニスムIV
株式会社東京印書館 2006年7月25日
セルジュ・ルモワンヌ、高階秀爾,馬渕明子,南 雄介,国立新美術館,読売新聞東京本社文化事業部 編集
「大回顧展 モネ 印象派の巨匠,その遺産」2007年 読売新聞東京本社発行
平松礼二著 平松礼二画集 株式会社求龍堂 2009年3月20日
平松礼二著 平松礼二「文藝春秋」表紙画集 株式会社求龍堂 2011年6月30日
石川健治・平松礼二・小山ブリジット 「平松礼二・睡蓮の池・モネへのオマージュ」
月刊美術9月号 2013年 実業之日本社発行
「秋月(部分)」 石踊達哉
空の青・夕日の橙がフェードしていき満月の仄かな光が支配し始める宵時、秋の草花が清楚に描かれています。ススキ、オミナエシ、ワレモコウ、キキョウ、ナデシコ、ハギ、ナンテンでしょうか。
宵闇せまる空のグラデーション。「ああ、こんな色調かしらねー」と何だか懐かしい気持ちが湧いてきます。派手な色彩ではありませんが、透かし模様風の唐草(?)模様が背景に散りばめられ、全体として雅の世界が展開されているように感じます。
瀬戸内寂聴現代語訳「源氏物語」全54帖の装丁画、金閣寺方丈杉戸絵、妙法院門跡襖絵などで高名な画伯です。平成の琳派とも称せられているようです。
石踊画伯はある雑誌に「芸大の学生時代に多摩美大の横山 操・加山又造両先生から得た言葉こそが出発点」と述べておられます。若き日に受けた教育はどんな職業においても大きいのでしょうね。かくいう私も仕事を始めて間もなくのころに、今は亡き恩師から繰り返しかけられた言葉を背負って人生を歩んでいるように思います。