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中島千波の琳派エボリューション

  1.  桜と牡丹(富貴花)
  2.  平成桜図
  3.  おぶせミュージアム・中島千波館へ
  4.  画文集「四季」
  5.  参考図書

 

 

中島千波の琳派エボリューション

桜と牡丹(富貴花)

絵に多少とも興味を持っている人であれば、中島千波画伯の桜の絵を見たことがないという方は少ないのではないでしょうか。五弁の花びらがシンボルマークのようになっていますから、一瞬でそれとわかります。たとえばシャネルやナイキのロゴのように周知されているわけですから、個性的であり他の作家との差別化に成功していると思います。

 

日本では春といえば桜を思い浮かべるくらいに、桜の花はポピュラーです。桜を観光の目玉にしているところも多いので、そうした所から画伯への桜の絵の依頼が大変多いという話をお聞きしたことがあります。中島千波流に桜一本だけで一枚の絵を描くというのは、大変難しい事のように思われます。

 

もちろん絵になるような桜は幹や枝ぶりが見事なのでしょうが、五弁の花びらをロゴで共通にすると、後は幹や枝の形状と色、地面やバックの色彩など変化を付けることができるところは限られています。背景に山川や寺社が入れば、同じような桜であっても全く違った雰囲気になりますが....。桜の木一本で「おらが村の桜」「わが寺の桜」を個性豊かに描ききるという真剣勝負をするのは大変な作業なのでしょう。

 

中島画伯の絵は、桜に限らず全体に明るく華やかな色彩が好ましいという方も多いと思います。バックが黒であっても、それは主題を強調するための黒であって、全体的には華やいでいるのです。私は桜の絵も好きですが、画伯の牡丹の絵に魅かれます。画材としては桜よりも牡丹(富貴花)のほうが色彩的に変化に富んだ絵になりますから、色々な牡丹図を見ていても飽きません。金色のバックに牡丹が描かれた絵をみていると、まさに「琳派エボリューション」という印象です。

平成桜図

とある絵画展で、名だたる近代日本画家たちの桜の絵を見る機会がありました。「桜」をキーワードにした大変充実した展示で、こういう企画も面白いと思いました。何が面白いかというと、桜を題材にして画家達がいかに考え、表現しているかを比較できるのです。そうすると各画伯の個性が際立って見えてくるのですね。

 

横山大観の夜桜、桜と松の競演、それぞれの美しさが見事に描かれています。加山又造の夜桜、清楚で可憐な桜と妖艶なかがり火とが闇夜にクッキリと浮かび上がっており、作者の鋭い感性がひしひしと伝わります。奥村土牛の桜、穏やかな作者の心を映しているようですね。現代になってくると、桜をモチーフに使いながら色々な試みが行われているようです。

 

一通り見て回って、「中島千波の桜」に強く惹かれました。大きな屏風に桜が1本、全体像として大きく描かれています。幹の描き方、枝振り、背景の配色の工夫など素晴らしいものです。遠くから見ると明るくて、爽やかで、何ともいえない気品を感じます。通俗風に言えばセンスが良いのでしょうね。このように桜を描けるのは中島画伯をおいて他にはいないような気がします...。

おぶせミュージアム・中島千波館へ

長野県の小布施町へドライブに行ってきました。小さな町ですが、町全体が観光に特化しているような印象です。色々な館がほとんど歩いて行ける距離に集中していますから、年配の方にも楽に回れるところです。町の中心街には北斎館、高井鴻山記念館、和菓子屋、造り酒屋などが軒を並べています。有名所を一通り回った後で、中心街から少し離れた中島千波記念館に向かいました。

 

私が訪れた時には入場者も少なくて、ユックリのんびり見学ができました。建物の半分は中島画伯の作品が展示されており、半分は他の展示物という構成でした。私のような千波ファンにとっては、建物全体を千波一色にした方が楽しいのになぁー。館内のショップで桜模様の扇子をお土産に購入。この扇子は大変良くできており、ながらく外出用の扇子として愛用しております。

 

最後に車で郊外の曹洞宗岩松院へ移動して、葛飾北斎肉筆の本堂天井絵「大鳳凰図」を鑑賞しました。中島画伯の生まれ故郷は美術的な環境に恵まれており、また食文化的も大変高い所のように思いました。私が訪れた日は晴天に恵まれ、画伯の明るい色彩の根源が何となく感じられる一日でした。

 

おぶせミュージアムで購入した桜模様の扇子

 骨に中島千波画伯の名前が刻印されています

画文集「四季」

中島千波画伯が担当された1987年から1989年までの3年間のNHK「きょうの料理」表紙装画の画文集です。見開きページの左側には季節の食材に花やオモチャなどを添えた絵、右側にはその絵にまつわる画伯の思いが短い文章で綴られています。

 

画伯の花やオモチャの絵はよく目にします。野菜の絵はあまり拝見したことがなかったので、興味深く見せていただきました。また添えられている文章を読み進むにつれて、画伯のご両親や奥様の人となり、お子様を交えた生活の様子が浮かび上がってくるように構成されています。

 

たとえば栗やワサビは細密描写風に描かれていますが、イチゴや西瓜は比較的あっさりと描かれております。対象により表現方法を変えているのですね。素人にはとても難しいことですが、「描く前に省略すべきものがわかっていなければならない」「省略の価値を理解できる世界観と、大胆に省略するこころの余裕も必要となる」という平山郁夫画伯の言葉が思い出されました。

 

それにしても「四季」の絵はすべてが明るく華やかな雰囲気に満ちていますね。単に明るい色を使っているだけではないようです...サクランボ、アスパラガスなど思いがけない色彩で描かれているものもあるようです。独特の色彩感覚が中島絵画の根源にはあるように思われます。


画集というよりも自叙伝的な雰囲気がある内容ですね。


中島千波ファンには中島絵画の理解を深める意味でも必見の画・文・集と思いました。

参考図書

中島千波 著 中島千波 彩図鑑 株式会社求龍堂 2004年6月30日第5版

中島千波 著 中島千波画文集 四季 日本放送出版協会発行 2004年2月10日第5刷