楽焼は茶の湯のために始まり、その技法の特徴は轆轤を使わず手捏ね(てづくね)という手法で胎を造り箆で削り出してゆくという特殊なもので、小規模な窯で炭を燃料として焼き上げる点にあります。京都楽家が本家本元で、玉水焼、大樋焼などの脇窯があります。赤楽茶碗は赤土に鉛釉を掛け1000度前後で焼き上げ、黒楽茶碗は赤土に黒釉を掛け1200度以上で焼成して引き出す(美濃の「引き出し黒」と同様の技法)ものです。
千利休(1522-1591)が創意した茶碗を楽家の初代長次郎(~1589)が焼造したことに始まるとされております。楽家の始祖は「飴也(あめや)」「比丘尼」とされており、飴也についての詳細は不明なようですが「元祖が唐人」との記載があり、比丘尼(日本人)は妻です。その子供が長次郎で、長次郎の時代に三彩釉を用いた作品があり、初期の楽家が中国明時代の華南三彩の技法を保持していたことから、飴也の出身地は中国南部辺りではないかとの推測があります。
利休は天正2年(1574)頃から織田信長の茶堂を務め、天正10年(1582)頃から豊臣秀吉の茶堂となりました。利休の遺構とされる「待庵」は天正10年頃に造られたと推測されており、長次郎の茶碗が誕生したのも同じ頃といわれています。一方、利休が楽茶碗を初めて使用した年代については1580~1586年と様々な憶測がありますが、「松屋会記」に記述された天正14(1586)年10月13日の茶会に使用された「宗易形ノ茶ワン」が最も可能性が高いようです。この茶会記を境にして、それまで主流であった唐物茶碗が急減し、高麗茶碗と瀬戸茶碗が頻繁に使われるようになり、長次郎の今焼茶碗も登場します。天正15年には唐物茶碗はほとんど見られなくなりました。
楽家2代は吉左衞門常慶(~1635)、その兄弟が庄左衞門宗味(~1618)、両者の父親が田中宗慶(1595年に60歳)で長次郎の妻(宗味の娘)の祖父です。長次郎・宗慶・常慶・宗味は一緒に工房を構えておりました。利休の死、豊臣から徳川への政権移行があり、本阿弥光悦の取りなしで常慶は徳川家に出入りを許され、秀忠から「樂」の字を戴き印とし、以降楽家当代は常慶の名前である吉左衞門を継ぐことになりました。
本阿弥光悦(1558~1637)が作陶を始めたのは1615年鷹ケ峰の地を拝領してからと考えられています。光悦の作陶は楽家の助けを受けて行われましたが、楽家は2代常慶、その長男3代道入(1599~1656)の時代でした。光悦の茶碗のほとんどは楽家で焼かれましたが、常慶の釉と考えられるもの(国宝「不二山」など)と道入の釉と考えられるもの(「くい違」など)があります。
4代一入(1640~1696)は道入の長男、5代宗入(1664~1716)は雁金屋三右衛門の子供で、一入の養子として楽家に入り、後に一入の娘を妻に迎えました。雁金屋三右衛門は尾形光琳・乾山兄弟の親である尾形宗謙の弟で、宗入は尾形光琳(1658~1716)・乾山(1663~1743)兄弟の従弟になります。また宗入の曾祖母は本阿弥光悦の姉で、本阿弥家とも血縁関係があります。6代左入(1685~1739)は宗入の婿養子で、大和屋嘉兵衛の次男です。7代長入(1714~1770)は左入の長男、8代得入(1745~1798)は長入の長男、9代了入(1756~1834)は長入の次男、10代旦入(1795~1854)は了入の次男、11代慶入(1817~1902)は旦入の養子として楽家に入り旦入の娘を妻としました。12代弘入(1857~1932)は慶入の長男、13代惺入(1887~1944)は弘入の長男、14代覚入(1918~1980)は惺入の長男、15代直入(1949~)は覚入の長男、そして当代の16代吉左衞門(1981~)は直入の長男です。
以上のように楽家は長次郎の血脈ではなく、田中宗慶の直系になります。楽家は織豊時代には「田中」姓を名乗り、5代宗入、6代左入の代になって「樂宗入」「樂左入」と「樂」を正式に名字にしておりますが、左入の書付には「田中左入」と書かれたものもあるようです。
玉水焼は一入の庶子一元(1662~1722)が起こした窯で、一元は宗入とともに一入の元で作陶に励み、宗入が吉左衞門を襲名することになったため母の実家に戻って楽焼窯を開窯し、以降3代まで血脈が続き、8代で廃窯しました。
大樋焼初代は土師長左衛門(1631~1712)で、一入に楽焼を学び(最高弟)、裏千家4代仙叟宗室が加賀前田家に茶堂として仕えるにあたり同道して加賀に赴き、金沢の大樋村に開窯しました。現在も代を重ねて存続しております。
林屋晴三 監修:樂茶碗の四〇〇年・伝統と創造 樂美術館 1998年6月29日
赤沼多佳 執筆・編集:日本の美術第399号 楽(長次郎と楽代々) 至文堂 1999年8月15日発行
樂吉左衛門 著: 樂焼創成 樂ってなんだろう 淡交社 平成21年1月13日 9版
里文出版編:必携 茶の湯やきものハンドブック 株式会社 里文出版 平成22年8月28日
樂吉左衛門 樂篤人 著: 定本 樂歴代 淡交社 平成25年4月8日初版
サントリー美術館 編集・発行:天才陶工 仁阿弥道八 2014年12月20日発行
東京国立博物館、NHK、NHKプロモーション、東京新聞 編集: 本阿弥光悦の大宇宙
NHK、NHKプロモーション、東京新聞 2024年1月16日発行